「逃げろって…どういうことですか?」
「お前はもう十分やってくれた。ここからは本当に危ないんだ」
美海の真っ直ぐな視線に土方は目を反らした。
どうやら土方は本当に美海を逃がそうとしているらしい。
「なんでですか。危ないのは皆同じじゃないですか。私も行きますよ」
美海は喧嘩腰で答える。
「お前にそこまでやってもらう必要はないんだ。お前はここでこんなことする必要はないんだ」
「意味わかりません!」
「第一お前は性別も違えば時代も違うだろ!」
お互いに息を切らす。
二人の声は何もない田んぼに響き渡るには十二分大きかった。
「…そんな風に思ってたんですか?」Notary Public Service in Hong Kong| Apostille Service
美海は目に涙を溜めている。
土方はバツが悪そうな顔をして舌打ちした。
美海だってわかっている。
自分は性別も違えば、生まれ育った時代さえ違う。
そんなの自分が一番わかっていることなのだ。
「お前は、もう来なくていいんだ」
「用済みってことですか?」
「違う!」
ただ逃げて欲しい。
美海にはどうしても逃げて欲しいのだが、普通に理由を言えば聞かないだろう。
「違いませんよ!なんなんですか!」
「女を…戦場には連れて行けねぇ…」
土方は呟いた。
「私はただの女ですか?仲間でしょ。違うんですか?」
土方は黙り込んだ。
仲間なのは当たり前だ。
だが、女なのも事実だ。
「…そうですか。わかりました。土方さんはそんな風に思ってたんですね。よくわかりました」
美海は一瞬辛そうな顔をしてから冷めたように言った。
そしてスタスタと小道を歩く。
「おいっ!」
土方が腕を掴んだ。
冬の空にパシンと乾いた音が響く。
「離してください。ここからは一人で行きます」
美海が土方の手を振り払ったのだ。
「ちょっと待てよ!」
今度は土方は美海の肩を掴んで前を向かせた。
だが土方は言葉をなくしてしまう。
美海はぼろぼろと涙を溢していた。
悔しいから泣くまいと口をへの字に曲げて土方を睨んでいた。
美海は再び思い切り腕を振り払うと走っていった。
土方はぼんやりとそれを見て手を宙で動かしている。
「ほぉんと土方さんは馬鹿だなぁ」
ふと先程まで怒っていた者の腑抜けた声が聞こえた。
後ろを振り返ると沖田が頭の後ろに手を起きながら立っていた。
「なんだよ」
「美海さんは死なせたくないって素直に言えばいいのに」
「縁起でもねぇこと言うな」
土方は沖田を睨んだ。
沖田はケラケラと笑う。
「でも、本当に死ぬかもしれねぇんだ。いつ死ぬか、わからないんだ。
俺は武士は戦場で死ぬほど良いことはないと思っている。
だが、あいつは女だ。ここでこんなこと、しなくていいだろ」
土方は動かしていた手を太陽にかざした。
馬鹿みてぇに細い肩と腕をしやがる。
あんなのだせねぇよ。
うん。俺は正しい。
ふむ。確かに土方の言うことにも一理あると沖田は頷いた。
それに自分の愛する人をわざわざ危険な目に合わせたくない。
「土方さんは毎度毎度言い方が悪いんですよ」
「生まれつきの才能だ」
「はいはい」
沖田は苦笑いした。
「土方さん。またしばらく会わないわけですし、少しそこでお話ししません?」
沖田はいたずらな笑みを浮かべながら小さな川の土手を指差した。
「すぐに会うけどな。いいぜ」
土方も笑うと頷いた。
二人はゆっくりと土手を降りた。
「土方さん」
「あ?」
土方は草むらに寝転んで草を加えている。
見上げた空は今までのことが嘘のように綺麗だった。
『平和』
その二文字が実によく合う日だ。
どこからか名前の知らない鳥の鳴き声が聞こえる。
「こんなところまで来てしまいましたね」
「あぁ」
ポチャンと川を魚が跳ねた。
土方は何を考えることもせずに、ただぼんやりと空を見ていた。
疲れたのだ。船の中でも一応休暇は休暇だったのだが、いろいろありすぎた。
「土方さん」
「あん?」
今度はなんだと言うように土方は答えた。
「私は後悔なんてしていませんよ」
土方はチラリと沖田に視線を移した。
沖田は決意をしたような顔で前をまっすぐ見ている。
「急にどうした」
美海は眉間に皺を寄せて沖田を見た。
「ちゅー!ちゅー!」
「早く食べてください」
「ちゅーちゅー!」
沖田のちゅーちゅーコールは鳴り止まない。
…ブチッ
「あーもう!ちゅーちゅーちゅーちゅーネズミですか!!ダメです!」
「え~。いいじゃないですか。夫婦なんだからぁ~!」
「夫婦とかそういう問題じゃないんです!大体接吻なんてしたら私に労咳が移りますよ?只でさえ一回してしまったのに」
美海はため息を着いた。
「……なら仕方ないですね。美海さんが労咳になったら元も子もないし」
沖田はそう言うが、あからさまにしょんぼりしている。https://www.easycorp.com.hk/blog/complete-guide-company-incorporation-in-hong-kong/
「…………」
めんどくさい人だなぁ。
まぁそんな人を好きになったのは私なんだけど。
美海は自分のマスクを外すと沖田の頬に顔を近づけた。
沖田の頬に美海の唇が当たる。
沖田は目を見開いた。
「今回はこれで我慢してください。労咳が治ったら接吻でもなんでもしてやりますよ」
美海は照れたようにそっぽを向いた。
耳まで赤くなっている。
本当にかわいいなぁ。
「ふふ!約束ですよ!」
沖田は笑った。
「じ…じゃあちゃんと食べといてくださいね!」
振り返った顔はやっぱり真っ赤だった。
ガラッ
スパン!
美海が急いで出ていった後沖田はクスクスと笑った。
「早く治らなきゃ」
「さ…斉藤さん!」
「す…すまん。その。聞くつもりは」
美海が外に出ると少し顔を赤らめた斉藤が立っていた。
益々恥ずかしくなる。
あぁー―――!消えたい。
「あの。えっと。夫婦というのは?」
斉藤は首を傾げた。
「あぁ!実は斉藤さんが帰ってくる前に沖田さんと祝言を挙げたんです」
美海はあたふたと動く。
「あ。おめでとうございます」
斉藤は頭を下げた。
「ありがとうございます」
美海も頭を下げた。
「総司と祝言ということは美海の性別を皆知ってるのか?」
「あ。はい!皆さんには…本当に感謝しています!」
「そうか」
斉藤は微笑んだ。
「総司のわがまま、ちょっとなら聞いてやってくれ」
斉藤はそう言うと立ち去った。
そういや斉藤さん。私の性別知ってたっけ?
まぁ、いいかな。
美海もその場を立ち去った。
美海は知らず知らずの間に沢山の人から助けられている。
美海は更に、近藤に呼ばれていたため、近藤の部屋へ向かっていた。
コンコン…
「近藤さん?立花です」
「おぉ!入ってくれ!」
「失礼します」
美海は部屋へ入った。
ノックをしないのは土方の部屋だけだ。
「そこに座ってくれ」
言われた通りに美海は座る。
久しぶりに一人で呼ばれ、少し緊張している。
目を泳がせると皆で撮った写真が目に入った。
「で。今回君を呼んだのは、油小路のことだ」
「え。あ!はい!」
美海は座り直した。
「美海くんの行動は隊としては決して良い評価はできない」
近藤にそう言われ、美海は俯き、唇を噛んだ。
確かにそうだ。
そのとおりだ。
独断で行動して、沢山の迷惑を掛けてしまった。
芹沢さんの時みたいに謹慎?
仕方がないことだとは思ってる。
「でも」
近藤の言葉に美海は顔をゆっくり上げた。
「近藤勇個人としては満点だ!!」
近藤はニカッと笑った。
「近藤さん……」
「本当は皆の前で発表して称えたいが、今回ばかりは公に出来ることじゃない。今後の隊に影響するからな…。
けど、それくらい感謝しているんだ!本当によくやってくれた!!」
近藤は美海の頭をガシガシと撫でた。
「こ…近藤さぁぁぁあん!!」
美海は思わず泣いてしまった。
「よしよし」
美海はしばらく近藤に背中を叩かれていた。
それから毎日は矢のように過ぎていった。
もう、雪が積もる季節になった。
「寒いですねぇ…」
「えぇ。早く火鉢取りにいかなきゃ」
縁側から見える中庭は真っ白だ。
臥せっている妻や生まれたばかりの赤子を残して成仏出来るはずもない。
逃げる気があればできたはずだ。
だが、妻や赤子、そして義母を残して逃げるような男ではなかった。
ましてや郎党どもを打ち殺し、家族を連れて逃げる甲斐性など望むべくもない。
見かけとは違って性根のやさしい男だった。
愚かと揶揄されるほどに。
小夜は、その不器用なやさしさを愛おしいと思ったのだ。
だが、自分が先に逝っては家族を守れないではないか。
詮議があれば無実が証明できると思っていたのだろうか。
国親は、小夜をわが物にしようとした後に高熱を出してひと月寝込んだ。
それが小夜の呪詛によるものだとわかっていよう。Notary Public Service in Hong Kong| Apostille Service
小夜の余命を承知で国親は仕掛けてきたのだ。
死んでからでは見せつけることができぬとでもいうように。
そうでなければシバを捕え、罪をなすりつけようとはしなかっただろう。
小夜の呪詛を恐れ、シバの命を奪うことはなかったであろう。
怒りにまかせた呪詛が、報いとなって跳ね返ってきたのだ。
――わが身と身内の事を占うことは避けてきた。
だが、占わなくともわかることがある。
シバが逝き、わたしが逝けば、この子と母は間違いなく命を奪われよう。呪術に長けた小夜といえど、死んだ者を甦らせることはできない。
今は、とどまっているものの、いずれこの魂は、あの世に逝ってしまうのだ。
自分は、あの世に逝けば逢うことができよう。
だが、この子を守ってもらうためには、逝かせるわけにはいかなかった。
――小夜は、震える手を胸元に伸ばした。
多祁理宮の巫女であった時分に、船越の郷司、船越満仲から贈られた勾玉である。
呪を唱え、その勾玉にシバの魂を留まらせた。
緑青色だったその珠は、鮮やかな緋色に変わり、命を得たように怪しく輝いた。
使い道を何かに書き記せばよいのだろうが、その余力はない。
たとえ記したところで容易には使いこなせまいが。
この子と母を守るには、宗我部国親を自らの手で葬り去るほかないだろう。
使うことになろうとは思わなかったが、その呪詛は頭の中に入っている。
母を呼び、必要なものを用意させると、ふきのとうが食べたいと山に採りに行かせた。
――死を望むほどの激しい呪いは、失敗すればわが身に跳ね返る。
恐ろしくないと言えば嘘になるかもしれない。
だが、自分は、すでに死の淵にいる。
真に怖ろしかったのは、この子の将来を奪われることだ。
この子の命を奪われることだ。
小夜は最後の力を振り絞った。
*
陽が傾き、山菜採りから帰ってくると、赤子が火のついたように泣き叫んでいた。
腹が減ったのだろうと米粉を溶いた椀を持って近づくと、娘の小夜が、事切れていた。
散乱した呪符のなか、その手に血を思わす緋色の勾玉を握りしめて。
*目を細めた龍神が、
「望みのままにしてやろう」
と言うと、イダテンが手にした花緑青色の勾玉が透きとおり始めた。
そして、翡翠色から若苗色に変わり、輝き、閃光が迸った。
姫は、その眩しさに目を閉じた。
閃光は徐々に鎮まり、暖かな光が全身を包んだ。
それは極楽浄土を信じぬイダテンさえも、そこに迷い込んだのではないかと錯覚するほどの安寧に満ちたものだった。
やがて、その若苗色の光は、小さな渦を巻き始め、イダテンの両腕を螺旋状に包み込んだ。
そして体に流れこんだ。
それはまるで熱を持っているようだった。
体の中心が暖かくなり、やがてたぎるように熱くなった。
その熱は徐々に腕や足に広がり、その末端まで達し、ゆっくりと引いていった。
指先には痺れるような熱が残っている。
先ほどまで感じていた寒さが吹き飛んでいた。
足の痛みも、肩の痛みも、頭の疼きも嘘のように消え去っていた。
それどころか、体中に力がみなぎりはじめた。頭の中が晴れ渡った。
「おおっ……」
イダテンは、思わず声をもらした。
確かに傷は塞がっていないが、体が動けば問題ない。
馬木の邸まで持てばよいのだ。
「願いは叶えたぞ」
龍神は、そう言い残すと、ゆっくりと池に沈んでいった。
まるで生きてでもいるかのように。
いつの間にか尻尾を丸めていた。
その時、指笛が鳴った。
攻撃の合図だ。
痺れを切らしたのだろう。
その音が呪縛から解き放った。
*
犬たちが尻尾を腹の下に丸め、情けない声を上げながら引き返したのを見てイダテンは手斧を下ろした。
寒さに震えていたにもかかわらず全身に汗をかいていた。
先ほどの鎧武者に続いて戻らなければ、さすがに矢が降り注いできただろう。
じりじりと包囲を狭めていた兵たちも予想外のことに動きを止めている。
自分たちが相手にしているのは鬼であったということを改めて思い出したに違いない。
足もとに縄の束が転がっていた。
落ち延びてくる者があれば、このあたりに追いこみ、足でも引っ掛けようと考えていたのだろうか。その縄の束をほどき、武士の残した弓と矢を交差させるように結んでいく。
出来上がった物から伸ばした縄を馬の鞍に繋ぎ、手綱を木からほどいて尻を突いた。
Complete Guide: Company Incorporation in Hong Kong
馬は、縄と弓矢で作った仕掛けを引いて勢いよく飛び出した。
それは六間も後方のすすき野をざわざわと揺らした。
それを目がけて大量の矢が放たれた。
息を整え、背中の姫がじっとしていることを確認すると、方向を変えて思いきって跳び出した。
月の光を浴びた鴇色の雅な袿の袖がひるがえる。
すべての兵を騙すことはできなかったようだ。
二の矢をつがえた者もいたのだろう。
唸りをあげて矢が飛んできた。
かまわず腕を振り、地を蹴り、全力で突き進んだ。
何人かの敵と、鉢合わせをしたが、頭上を跳び越え、横をすり抜け、すすきが原をあっという間に駆け抜けた。
すぐに、馬のいばえも遠くなり、飛んでくる矢が減った。
どうにか振り切ったようだ。
だが、追手たちもあきらめたわけではない。
振り返ると馬に乗った伝令たちが四方八方に散っていくのが見えた。
おそらく要所、要所に人は配置しているだろう。
逃げ込む先はわかっているのだから。
それでも姫を生かして、そこにたどりつかせると面倒なことになる。阿岐権守同様、邸で謹慎してきた馬木の隆家に軍勢を繰り出す口実を与えることになるからだ。
隆家にしても、ささらが姫が生きていればこそ、
「謀反を起こしたのは海田の宗我部国親である。叔父である馬木の隆家が後見に立ち、凶党、宗我部を鎮圧するために兵を挙げる」
と、いう名目が立つ。
左大臣と言えど、隆家側の言い分を聞かざるを得まい。
様子見をしていた近隣の土豪も味方につくだろう。
宗我部側から離反する者も出るだろう。
だが、たとえ姫を擁しても、隆家が討たれれば宗我部の言い分が通るだろう。
どちらが正しいかではない。
勝った者が正しいのだ。
理由など、あとからつければよい。
戦とは、歴史とはそうしたものだ。
勝てば都に返り咲くきっかけとなろう。
あるいは勝ってのち都に帰ることをあきらめ、この地に定住すれば、宗我部にとって代わり、この地の棟梁となることもできよう。
いずれにせよ、姫は、隆家にとっての飾りとなる。
だが、姫を救う道はそれしか残っていない。
イダテン一人なら、馬よりも早く走ることができる。
姫を背負っても負けはせぬだろう。
だが、足首も万全ではない。
体力も落ちていた。
馬が入って来れない径や、獣道などを選んで走ったことで負担も増した。
足が重くなり、息も乱れてきた。道隆寺参道手前の坂道を、甲冑に身を包んだ武者が次々と蹄の音を響かせて駆け抜ける。
伝令のあかしである背中の旗がちぎれてしまうのではないかと思うほどの勢いだ。
鞭を入れられた馬は、泡を吹かんばかりである。
れながら、今、何とせになられました?」
「ですから、蘭丸様が父上様のお供で、京へ上られると」
「 ! 」
齋の局はくように両眼を見開いた。
それからも経たぬ内に、齋の局は安土城の長い渡り廊下を、濃姫と共にけていた。
途中で家臣らと何度かすれ違い、その慌ただしさを驚かれたが、
濃姫も齋の局も、そんなことはお構い無しに、ただ先へ先へと進んでゆく。
この時の濃姫のは凄まじく、まるで緊迫や恐怖といったの感情が、束になって彼女の顔面にり付いているようだった。
実際に今の濃姫の心には一切の余裕がなく、胸は驚きと動揺から…、何故に上様がご上洛を!?
真っ直ぐ備中へ向かわれるのではなかったのか!?
齋の局から一件を伺った濃姫は、急な事態にただただ驚愕し、Notary Public Service in Hong Kong| Apostille Service
例の悪夢が手伝ってか、気が付けば夫の姿を求めて天主閣へと走っていた。
今の刻限ならば、ちょうど公務を終えた信長が天主の自室へ戻っている頃だ。
いったいどういう事なのか、事情をくならば早い方が良いと、濃姫は長い渡り廊下を懸命に駆けていった。
すると、その道すがら
「──これは、み、御台様っ!」
小姓の坊丸に出くわし、彼は廊下の端に下がって、御台所に深く一礼を垂れた。
濃姫はちょうど良いところにと、すかさず坊丸の前に走り寄る。
「上様…、上様は…においでじゃ!?」
荒い息を吐きながら、万一を考えて夫の居場所を伺った。
何せ気まぐれな性格だ、必ず天主にいるとは限らない。
「──畏れながら、上様におかれましては、只今 西のへ参られておりまする」
「…蔵とな?」
「中に納めてあります、数々の骨董や茶道具などを運び出されているのです。
きっと今頃は、隣接の座敷にて、それらをめておられるかと」
「茶道具を──。ご出陣を控えた上様が、何故にそのようなことを?」
「はい、それは…」
「いや、良い。上様に直接お訊き致します故。──参ろう」
「はい」
濃姫はサッとを返すと、齋の局を連れて再び駆けていった。
上様の御正室ともあろうお方が、何をそんなに慌てているのかと、
事情を知るもない坊丸は、ひとり小首をげていた。
「──早よう、これを座敷の方へ」
「──こちらはの茶入れじゃ、慎重にお運び申せ」
「──これ!もそっと丁寧に扱わぬか!」
その頃 東の蔵では、坊丸の言葉通り、蔵の中に納めてある骨董類や調度品、茶道具などが大急ぎで表へ運び出されていた。
信長の近習たちは、実に慎重な手つきでの箱に納められた道具類を受け取ると、
蔵に隣接する御殿の庭先を通って、正面の座敷の中へと一つ一つ運び入れてゆく。
それらを小姓衆が、箱のや紐を解きつつ、座敷の下段に整然と並べていった。
茶碗や茶釜などの茶道具から、壷や屏風、掛け軸などの骨董類に至るまで、全て値の張る珍品ばかりである。
それらを、座敷の上段近くに控える力丸が
「こちらは、の茶入れ。こちらは小松島の茶壷にございます」
品名を明らかにしつつ、上段に座す信長に披露していた。
信長はそれらをめては、頷いたり、首を振ったりして、一つずつ選別しているようであった。
すると「──上様!上様!」と、濃姫の声が座敷の外から響いてくる。
信長が「ん?」と眉をひそめて顔を上げると