れながら、今、何とせになられました?」
「ですから、蘭丸様が父上様のお供で、京へ上られると」
「 ! 」
齋の局はくように両眼を見開いた。
それからも経たぬ内に、齋の局は安土城の長い渡り廊下を、濃姫と共にけていた。
途中で家臣らと何度かすれ違い、その慌ただしさを驚かれたが、
濃姫も齋の局も、そんなことはお構い無しに、ただ先へ先へと進んでゆく。
この時の濃姫のは凄まじく、まるで緊迫や恐怖といったの感情が、束になって彼女の顔面にり付いているようだった。
実際に今の濃姫の心には一切の余裕がなく、胸は驚きと動揺から…、何故に上様がご上洛を!?
真っ直ぐ備中へ向かわれるのではなかったのか!?
齋の局から一件を伺った濃姫は、急な事態にただただ驚愕し、Notary Public Service in Hong Kong| Apostille Service
例の悪夢が手伝ってか、気が付けば夫の姿を求めて天主閣へと走っていた。
今の刻限ならば、ちょうど公務を終えた信長が天主の自室へ戻っている頃だ。
いったいどういう事なのか、事情をくならば早い方が良いと、濃姫は長い渡り廊下を懸命に駆けていった。
すると、その道すがら
「──これは、み、御台様っ!」
小姓の坊丸に出くわし、彼は廊下の端に下がって、御台所に深く一礼を垂れた。
濃姫はちょうど良いところにと、すかさず坊丸の前に走り寄る。
「上様…、上様は…においでじゃ!?」
荒い息を吐きながら、万一を考えて夫の居場所を伺った。
何せ気まぐれな性格だ、必ず天主にいるとは限らない。
「──畏れながら、上様におかれましては、只今 西のへ参られておりまする」
「…蔵とな?」
「中に納めてあります、数々の骨董や茶道具などを運び出されているのです。
きっと今頃は、隣接の座敷にて、それらをめておられるかと」
「茶道具を──。ご出陣を控えた上様が、何故にそのようなことを?」
「はい、それは…」
「いや、良い。上様に直接お訊き致します故。──参ろう」
「はい」
濃姫はサッとを返すと、齋の局を連れて再び駆けていった。
上様の御正室ともあろうお方が、何をそんなに慌てているのかと、
事情を知るもない坊丸は、ひとり小首をげていた。
「──早よう、これを座敷の方へ」
「──こちらはの茶入れじゃ、慎重にお運び申せ」
「──これ!もそっと丁寧に扱わぬか!」
その頃 東の蔵では、坊丸の言葉通り、蔵の中に納めてある骨董類や調度品、茶道具などが大急ぎで表へ運び出されていた。
信長の近習たちは、実に慎重な手つきでの箱に納められた道具類を受け取ると、
蔵に隣接する御殿の庭先を通って、正面の座敷の中へと一つ一つ運び入れてゆく。
それらを小姓衆が、箱のや紐を解きつつ、座敷の下段に整然と並べていった。
茶碗や茶釜などの茶道具から、壷や屏風、掛け軸などの骨董類に至るまで、全て値の張る珍品ばかりである。
それらを、座敷の上段近くに控える力丸が
「こちらは、の茶入れ。こちらは小松島の茶壷にございます」
品名を明らかにしつつ、上段に座す信長に披露していた。
信長はそれらをめては、頷いたり、首を振ったりして、一つずつ選別しているようであった。
すると「──上様!上様!」と、濃姫の声が座敷の外から響いてくる。
信長が「ん?」と眉をひそめて顔を上げると