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真顔で言われた桂は物凄く心を抉られた

真顔で言われた桂は物凄く心を抉られた。その横では入江が腹を抱えて転げまわるぐらいの大笑いをした。

 

 

「だからっ!私はっ!三津しか嫁に欲しくないっ!幾松じゃなく君だっ!何度言えば分かるんだっ!」

 

 

桂の怒声に広間は静まり返った。そして幾松の不機嫌な咳払いが一つ。

 

 

「桂はん。朝から私に恥かかせんとってくれる?」 https://www.easycorp.com.hk/zh/notary

 

 

にっこりと睨まれて桂は冷や汗を掻きながらふいっと目を逸らした。

 

 

「お三津ちゃん。」

 

 

「はひっ!」

 

 

幾松の笑顔が今度は三津に向けられた。ちょいちょいと手招かれ正面に正座させられた。

 

 

「お三津ちゃんもいい加減男心分かるようになりぃや。これだけ分かりやすく想い伝えられとるのになんで分からへんの?

確かにこの人は女にだらしないから信用ならんかもしらんけどどう考えてもお三津ちゃんには真剣よ?」

 

 

文と入江はそれを聞いて信用ならん信用ならんとくすくす笑って桂を指差した。そんな笑われている桂を三津はちらりと横目で見た。

 

 

「真剣でも女遊びする人に三津は任せられんけぇここは寛大な幾松さんが桂さん引き取ってくださいよ。三津は私が最期まで面倒見るんで。」

 

 

「えー嫌や。軟弱骨なしやもん。骨抜いたお三津ちゃんが責任取らんと誰が取るんよ。」

 

 

「君達言いたい放題だな……。」

 

 

何で朝からこんなに心を抉られなきゃならないんだと桂は項垂れた。その様子を見て坂本は声を上げて笑った。

 

 

「桂さん,このお嬢ちゃんは手放さん方がえぇぞ。間違いなく桂さんを良い方に導いてくれる気がするわ。」

 

 

「やって。これはお三津ちゃん傍に居らなアカンのちゃう?」

 

 

「えー幾松さん桂さんの味方なの?」

 

 

入江はそれは困るんだけどと笑った。でもその顔は全然困ってなんかいない。

 

 

「当たり前よ。お三津ちゃんやから桂はん任せられるんやん。他の女がその座奪うんやったらすぐに私が取り返すわ。出石の女共なんて以ての外よ。」

 

 

幾松の鋭い眼光が桂に向けられた。入江はおちょくるように,ほら言われてるぞと桂を肘で突いた。悔しいが何も言えない桂はだんまりだ。

 

 

「私はそれだけ二人がお似合いやって思ってんの。

それより私朝餉食べに来たの。お腹空いてるねんから入江はんご飯ちょうだい。」

 

 

「いや,頼む相手間違っちょるやろ。」

 

 

そう言いながらも席を立ってご飯をよそってあげる入江を優しいなぁと三津とフサは目を細めて見ていた。

二人の温かい視線に気付いた入江は何?と首を傾げた。

 

 

「九一さんのそう言う所好きです。」

 

 

「フサもです。」

 

 

「ほら桂様,あぁ言う細かい気遣いですよ。あの変態は案外さらっとやりよるんですよ。」

 

 

「おい変態関係ないやろが。」

 

 

入江は文に一言余計だとしゃもじをビシッと突きつけた。桂は悪かったね気遣いの出来ない男でと不貞腐れてそっぽを向いた。その姿に思わず三津の顔がにやけた。

 

 

「小五郎さんのその子供っぽくなる所好きですよ。可愛くて。」

 

 

「可愛いと言われても嬉しくない。」

 

 

余計に拗ねてしまった桂に食ってかかったのは高杉と山縣だった。

 

 

「桂さんそれは贅沢ぞ。俺と有朋なんか大半無視されとるぞ。」

 

 

「晋作は京の藩邸で三津に子供産めと迫ったからだろ。」

 

 

「は?あんた懲りずにそんな事しちょったん?桂様,何でこいつ生かしとるそ?」

 

 

文はすぐに始末しろと桂に詰め寄った。桂が出来ないなら私とフサでやるぞと脅した。

 

 

「ここは賑やかでええなぁ。」

 

 

「いや坂本さん,今俺を殺す殺さんの話をそこでされちょるんやけど。」

 

 

賑やかだけど物騒極まりないと高杉は訴えるが坂本は居心地がいいと顔を綻ばせた。

 

 

まだのんびりとしたい所だがこちらも多忙を極める男。

 

 

「中岡から一報があればすぐに報せる。」

 

 

そう言い残して坂本は名残惜しそうに次の予定があると阿弥陀寺を出た。

 

 

 

それからしばらくして坂本から頼りが届いた。

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