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「こちらこそすみません

「こちらこそすみません。自分が歩く問題児やって事をすっかり忘れてました。」

 

 

「稔麿で応戦したん?」

 

 

入江は剥き出しになって胸に抱かれている吉田に目を落とした。三津はそれはしてないと苦笑した。

背負っていた風呂敷を裂かれて吉田を取り上げられ,髪を切り落とされるまでの経緯を話した。

 

 

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山縣もボコボコにして根性叩き直してやらんと気が済まんと言って鼻息を荒くした。もしくは死んで一からやり直させるべきだと憤る。

 

 

「お三津ちゃんは赤禰さんを侮辱されたのを歯を食いしばって堪えたんよ。相手にせんかったのにあっちがしつこくしてきたそ。お三津ちゃんには何の非もないのに……。」

 

 

セツは歩く問題児やなんてとんでもないと三津を庇って桂達に説明した。

 

 

「セツさんの傷は?俺おぶって帰っちゃる。」

 

 

山縣が心配そうに晒しを巻かれた左腕を見た。セツは私は大丈夫よと山縣の肩をぽんぽん叩いた。でもありがたくおぶられようかしらと笑った。

セツの笑顔に三津は少しだけ気が楽になった。

 

 

それから三津は世話をしてくれた町民達にありがとうございましたと頭を下げて回った。その後に続いて高杉も仲間を助けてくれてありがとうと礼を述べた。桂も騒がせてすまないと声をかけて回った。

 

 

これでようやく帰ろうかとなった所で,今度は木戸様!と叫びながら走ってくる女が目に入った。

 

 

「木戸さん愛人やぞ。」

「よせ晋作。彼女は違う。」

 

 

そのやり取りに三津は苦笑した。彼女が妾でも何でもないのは分かっている。

 

 

「良かった!お品物!」

 

 

『やっぱり。』

 

 

彼女は和菓子屋の女将だ。またお代だけ払って店を飛び出したんだなと三津はくすりと笑った。品物は約束の手土産だろう。

悠長に構えていたら女将と目が合った。「奥方様。」

 

 

「はい?」

 

 

きりっとした目が自分に向いて三津は少し身構えた。彼女はそんな三津に綺麗な布をすっと差し出した。

 

 

「私の物で申し訳ございませんがよろしければお使いくださいませ。」

 

 

女将が差し出したのは頭巾だった。お高いんだろうなぁと思わせる上等な布地で三津は受け取るのを躊躇した。三津が戸惑うから女将は自ら頭巾を三津に被せた。これ以上晒し者にならないように配慮してくれた。

 

 

「お顔に傷がないのが幸いでございます……

木戸様,泣き言言わずに済むようにしっかり御守りくださいませ。」

 

 

女将はそれだけ言うと荷物を桂に押し付けてそそくさと帰って行った。

 

 

「三津さんあれ誰?」

 

 

「和菓子屋の女将さんですよ。」

 

 

肘で突いてきた高杉に前にも会ったことあるんだと話した。前にもお代を払って品物を持たずに店を飛び出した桂を追って来た。

あの時は赤禰と出掛けた帰りだったのを思い出して少しうるっときた。

 

 

「土産も手に入ったし帰るか。三津さん帰ったら髪綺麗に切りそろえちゃるわ。」

 

 

「えー高杉さんに任せたら髪の毛なくなりそう。」

 

 

「うん,晋作には任せられん。三津私がやってあげる。これでも手先は器用やで。」

 

 

高杉と入江に挟まれながら三津は帰路についた。山縣はセツを背負ってその後ろをのんびり歩き,桂と伊藤は最後尾を歩いた。

 

 

……あの和菓子屋の女将とはいい仲ですか?」

 

 

伊藤に問われて桂は全力で首を横に振った。

 

 

「馬鹿な事言うな!そんな訳あるか。三津に聞こえたらどうする!」

 

 

「でも泣き言言ってたんでしょう?女将に。」

 

 

「目敏いなぁ。三津の事を相談してたんだよ。」

 

 

三津の為に菓子を買いに行って好みなどを伝えて一緒に選んでもらう中で,女心について相談するようになっただけだ。潔白だと言い張った。

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