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「おい!待て!」
こっちは見つかりたくないんだ。
そう言った所でこんな子供に大人の事情など分かるまい。
斎藤は観念して三津の元へ連行された。
「三津!斎藤見つけた!」https://www.easycorp.com.hk/zh/notary
「え!?」
三津はぎょっとしてすかさず宗太郎の手を叩き落とした。
「斎藤さん何か用事があるんちゃいます?」
三津は申し訳なさそうな表情で斎藤の顔を覗き込んだ。
「そんな事あるか,さっきまであっちの茶屋で…。」
そう言った宗太郎の口を,斎藤は瞬時に塞ぎにかかった。余計な事をしておいて,更に余計な事を言うんじゃない。
大人げなく宗太郎と睨み合っていると,
「斎藤さぁー…ん。もしかして…。」
三津の声色が変わり,ぎくりと肩を揺らしてゆっくり目を向けると,疑いの眼差しがビシビシ突き刺さる。
「土方さんに頼まれて来たんでしょ?
嫌やわ,そんなんせんたって逃げたりしませんから!」
「いや…。」
土方に頼まれた…と言うか,指名されてこの任務についているのは事実だが,
『逃げるとは念頭に無かったな…。まぁ護衛とは言えど終日監視されてると知ればいい反応は見せんだろうな…。』
その為にはこれ以上宗太郎に何も言わせまい。
口を塞いでいた手を外し,肩を抱き寄せるように見せかけて首に這わせた。
「今日はただ俺がお前に会いたくて来たんだ…が…。」
何も悟られない為とは言え,口にした言い訳に顔が熱くなる。
三津がきょとんとしたまま何の反応も示さないから尚恥ずかしい。
「…何とか言え。」
「ぷっ…変なの!斎藤さん絶対そんなん言う人ちゃうのに!
土方さんに何か吹き込まれたんちゃいます!?」
三津は斎藤を指差して大笑い。
苦しい苦しいと自分の太ももを叩いた。
「笑うな!指を差すな!」
斎藤がムキになればなる程三津は面白がって笑った。
『いかん…こんな事をしてる場合ではなかった…。』
三津と居るとどうも調子が狂ってしまう。
巧いこと切り上げて早い所身を隠してしまいたかった。
「会いに来てくれたからには寄って行きはるでしょ?」
にんまりと笑った三津が腕を絡めて甘味屋へと引き寄せる。
「あぁ…茶を一杯…。」
密着した腕と腕に冷静さを欠きながら,表の長椅子に腰掛けた。
「茶だけ?団子も食っとけや。」
右横を見下ろせばブスッとした宗太郎と目が合った。
「お前は商売人だな。」
そして俺はお前が苦手だ。
じっと強気な目に訴えかけた。
「斎藤さんは甘いものよりお酒の方がいいんちゃいます?
沖田さんなら迷わず甘いものやけど。
あ!皆さん元気にしてはります?」
「何だもう屯所が恋しいか。」
差し出された湯呑みを受け取って三津の顔をのぞき込むと,んーと首を傾げながらへへっと笑った。
「賑やかさが恋しいです。」
夜になると物静かで寂しいんだと困ったように笑みを浮かべた。家に帰って来て功助もトキも居るし,お店は賑やかで近所の子供達も遊んでくれとせがみに来る。
それなのに三津は寂しいと思う。
『でも向こうに帰った時にまたみんなを軽蔑した目で見てしまいそう…。』
正反対の気持ちが同居する。
みんなと居たいような,距離を置きたいような。
『ちゃんと自分の考えをまとめなアカン。』
分かってはいる。だけど考えた所で生まれるのは焦りだけで,出したい答えが見えて来ない。
「三津,今日は何して遊ぶ?」
不意に今に引き戻された。
逃がすまいとちゃっかり斎藤の着物を掴んで離さない宗太郎。
「コラ,斎藤さんまで巻き込みな。今日はねお遣いがあるねん。それが終わってから行くから待ってて。」
優しく頭を撫でてやると“絶対やで!”と釘を刺された。
「そしたら先遊んどく。」
長椅子からひょいと飛び降りて宗太郎は駆けて行った。
やんちゃな子供を柔らかい眼差しで見送ってから,斎藤に振り返った。
「斎藤さんもお急ぎですか?」
「いや,急いでるのはお前の方だろ。」