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高杉は仰け反らせた体を元に戻してそうか?と首を傾げた。
「九一は性癖がアレやからどうか分からんけど,戦の後とかって何か変に気分が昂って収まりきらん事がよくあるそっちゃ。そん時はよく女買いに行っとったんやけど。」
『奥さん放ったらかしてよくもまぁ……。』
そうは思ったが簡単に会いに行ける距離に居ないから仕方がないのかもしれない。納得はしていないが少し理解はした。
「でも寝とるんなら平気なんやろな。」 https://www.easycorp.com.hk/zh/notary
『いや,平気やなかったですよ。』
あなたと同じ状態ですよとは口が避けても言うまい。せっかく勝手に平気だと思ってるんだ。余計な事は言うまい。
「そうですか……。って事は高杉さん今もしかして?」
「うん,めっちゃ女抱きたい。」
その満面の笑みが眩しかった。ここで抱かせろと言わないだけマシだ。
「……自分へのご褒美に遊んで来たらいいやないですか。」
「おう。最近おうのの相手しとらんけぇ行ってくるかな。三津さんも九一に求められたら人助けと思って抱かしちゃり!木戸さんには黙っとくけぇ!」
高杉はじゃっ!と手を上げて姿を消した。
「おうのって誰……。」
言わずもがな愛人だとは理解した。
『私も高杉さんとやってる事は同じか……。』
いくら夫公認,周りにも理解を得ていると言えど,もし自分が逆の立場ならそれを許せる程の寛大さは無い。絶対離縁だ。
他人がして許せない事を,自分はしているのが許せない。
どちらかに決めなければと思っても既に夫婦となっているから夫一択しかない。
『やっぱり九一さんと生きてくのは諦めなアカン……。』
“何事にも多少なりとも犠牲が必要”
「おい入江。起きろ飯だ。」
その声に入江はゆっくり目を開いた。光と共に目に入ったのは自分を覗き込む山縣の顔。
「あ?有朋?」
「大丈夫か?お前すげぇ寝てたぞ。ほら,朝餉食うぞ。起きろ。」
「え!?朝!?」
入江は飛び起きて辺りをきょろきょろ見渡した。いつの間にかちゃんと敷かれた布団の上にいた。状況が分からず呆然とした。
「おう。嫁ちゃんが全然起きんから布団に乗せてくれって頼みに来て,俺が布団に転がしても起きんかったそ。この時間にも広間来んけぇ流石に呼びに来た。」
「みっ三津は?」
「お前の部屋で寝た。大丈夫,誰も夜這いには行っとらん。目ぇギンギンした奴ら多かったけぇ念の為見回りはしたけぇ安心しろ。今は朝餉の用意で忙しい。」
山縣が先に広間に戻ると入江の肩を叩いて部屋を出てから,入江は昨日の記憶を手繰り寄せた。「……不覚。」
入江は両手で顔を覆って俯いた。その時腹の虫が鳴いた。
『……行くかぁ。』
入江は重い体で立ち上がって身支度を整えに一旦自室へ戻った。
広間に行くといつもの賑やかさがあり,その中心には三津が居た。そしてその側に山縣が居て三津の盾になってるようだった。
「あれ?晋作は?」
「九一さん!おはようございます。高杉さん昨日おうのさんの所行くって出てったまんま帰って来てないです。」
入江に気付いた三津が普段通りの笑顔を見せた。だが入江はその笑顔が直視出来ない。
「おうの?あぁ……妾か……。」
『晋作も吐き出しに行ったんか。そりゃそうやな。』
「九一さん大丈夫です?相当疲れてますよね?食べたらまた休んで?ほら座りましょ?」
ぼーっと突っ立っていたらいつの間にか三津が顔を覗き込んでいた。思わず顔を逸して何度も頷いて席についた。
「嫁ちゃんおかわり!」
「はーい!ただいま!」
三津はみんなに呼び付けられてすぐにその場から離れた。
「どした入江。体調悪いんか?顔赤い。」
「何ともない。疲れが取れちょらんだけや……。」
「ふーん?」
「こちらこそすみません。自分が歩く問題児やって事をすっかり忘れてました。」
「稔麿で応戦したん?」
入江は剥き出しになって胸に抱かれている吉田に目を落とした。三津はそれはしてないと苦笑した。
背負っていた風呂敷を裂かれて吉田を取り上げられ,髪を切り落とされるまでの経緯を話した。
「女子に月代剃れや?胸糞悪いったりゃありゃせんわ。」 https://www.easycorp.com.hk/blog/complete-guide-company-incorporation-in-hong-kong/
山縣もボコボコにして根性叩き直してやらんと気が済まんと言って鼻息を荒くした。もしくは死んで一からやり直させるべきだと憤る。
「お三津ちゃんは赤禰さんを侮辱されたのを歯を食いしばって堪えたんよ。相手にせんかったのにあっちがしつこくしてきたそ。お三津ちゃんには何の非もないのに……。」
セツは歩く問題児やなんてとんでもないと三津を庇って桂達に説明した。
「セツさんの傷は?俺おぶって帰っちゃる。」
山縣が心配そうに晒しを巻かれた左腕を見た。セツは私は大丈夫よと山縣の肩をぽんぽん叩いた。でもありがたくおぶられようかしらと笑った。
セツの笑顔に三津は少しだけ気が楽になった。
それから三津は世話をしてくれた町民達にありがとうございましたと頭を下げて回った。その後に続いて高杉も仲間を助けてくれてありがとうと礼を述べた。桂も騒がせてすまないと声をかけて回った。
これでようやく帰ろうかとなった所で,今度は木戸様!と叫びながら走ってくる女が目に入った。
「木戸さん愛人やぞ。」
「よせ晋作。彼女は違う。」
そのやり取りに三津は苦笑した。彼女が妾でも何でもないのは分かっている。
「良かった!お品物!」
『やっぱり。』
彼女は和菓子屋の女将だ。またお代だけ払って店を飛び出したんだなと三津はくすりと笑った。品物は約束の手土産だろう。
悠長に構えていたら女将と目が合った。「奥方様。」
「はい?」
きりっとした目が自分に向いて三津は少し身構えた。彼女はそんな三津に綺麗な布をすっと差し出した。
「私の物で申し訳ございませんがよろしければお使いくださいませ。」
女将が差し出したのは頭巾だった。お高いんだろうなぁと思わせる上等な布地で三津は受け取るのを躊躇した。三津が戸惑うから女将は自ら頭巾を三津に被せた。これ以上晒し者にならないように配慮してくれた。
「お顔に傷がないのが幸いでございます……。
木戸様,泣き言言わずに済むようにしっかり御守りくださいませ。」
女将はそれだけ言うと荷物を桂に押し付けてそそくさと帰って行った。
「三津さんあれ誰?」
「和菓子屋の女将さんですよ。」
肘で突いてきた高杉に前にも会ったことあるんだと話した。前にもお代を払って品物を持たずに店を飛び出した桂を追って来た。
あの時は赤禰と出掛けた帰りだったのを思い出して少しうるっときた。
「土産も手に入ったし帰るか。三津さん帰ったら髪綺麗に切りそろえちゃるわ。」
「えー高杉さんに任せたら髪の毛なくなりそう。」
「うん,晋作には任せられん。三津私がやってあげる。これでも手先は器用やで。」
高杉と入江に挟まれながら三津は帰路についた。山縣はセツを背負ってその後ろをのんびり歩き,桂と伊藤は最後尾を歩いた。
「……あの和菓子屋の女将とはいい仲ですか?」
伊藤に問われて桂は全力で首を横に振った。
「馬鹿な事言うな!そんな訳あるか。三津に聞こえたらどうする!」
「でも泣き言言ってたんでしょう?女将に。」
「目敏いなぁ。三津の事を相談してたんだよ。」
三津の為に菓子を買いに行って好みなどを伝えて一緒に選んでもらう中で,女心について相談するようになっただけだ。潔白だと言い張った。
真顔で言われた桂は物凄く心を抉られた。その横では入江が腹を抱えて転げまわるぐらいの大笑いをした。
「だからっ!私はっ!三津しか嫁に欲しくないっ!幾松じゃなく君だっ!何度言えば分かるんだっ!」
桂の怒声に広間は静まり返った。そして幾松の不機嫌な咳払いが一つ。
「桂はん。朝から私に恥かかせんとってくれる?」 https://www.easycorp.com.hk/zh/notary
にっこりと睨まれて桂は冷や汗を掻きながらふいっと目を逸らした。
「お三津ちゃん。」
「はひっ!」
幾松の笑顔が今度は三津に向けられた。ちょいちょいと手招かれ正面に正座させられた。
「お三津ちゃんもいい加減男心分かるようになりぃや。これだけ分かりやすく想い伝えられとるのになんで分からへんの?
確かにこの人は女にだらしないから信用ならんかもしらんけどどう考えてもお三津ちゃんには真剣よ?」
文と入江はそれを聞いて信用ならん信用ならんとくすくす笑って桂を指差した。そんな笑われている桂を三津はちらりと横目で見た。
「真剣でも女遊びする人に三津は任せられんけぇここは寛大な幾松さんが桂さん引き取ってくださいよ。三津は私が最期まで面倒見るんで。」
「えー嫌や。軟弱骨なしやもん。骨抜いたお三津ちゃんが責任取らんと誰が取るんよ。」
「君達言いたい放題だな……。」
何で朝からこんなに心を抉られなきゃならないんだと桂は項垂れた。その様子を見て坂本は声を上げて笑った。
「桂さん,このお嬢ちゃんは手放さん方がえぇぞ。間違いなく桂さんを良い方に導いてくれる気がするわ。」
「やって。これはお三津ちゃん傍に居らなアカンのちゃう?」
「えー幾松さん桂さんの味方なの?」
入江はそれは困るんだけどと笑った。でもその顔は全然困ってなんかいない。
「当たり前よ。お三津ちゃんやから桂はん任せられるんやん。他の女がその座奪うんやったらすぐに私が取り返すわ。出石の女共なんて以ての外よ。」
幾松の鋭い眼光が桂に向けられた。入江はおちょくるように,ほら言われてるぞと桂を肘で突いた。悔しいが何も言えない桂はだんまりだ。
「私はそれだけ二人がお似合いやって思ってんの。
それより私朝餉食べに来たの。お腹空いてるねんから入江はんご飯ちょうだい。」
「いや,頼む相手間違っちょるやろ。」
そう言いながらも席を立ってご飯をよそってあげる入江を優しいなぁと三津とフサは目を細めて見ていた。
二人の温かい視線に気付いた入江は何?と首を傾げた。
「九一さんのそう言う所好きです。」
「フサもです。」
「ほら桂様,あぁ言う細かい気遣いですよ。あの変態は案外さらっとやりよるんですよ。」
「おい変態関係ないやろが。」
入江は文に一言余計だとしゃもじをビシッと突きつけた。桂は悪かったね気遣いの出来ない男でと不貞腐れてそっぽを向いた。その姿に思わず三津の顔がにやけた。
「小五郎さんのその子供っぽくなる所好きですよ。可愛くて。」
「可愛いと言われても嬉しくない。」
余計に拗ねてしまった桂に食ってかかったのは高杉と山縣だった。
「桂さんそれは贅沢ぞ。俺と有朋なんか大半無視されとるぞ。」
「晋作は京の藩邸で三津に子供産めと迫ったからだろ。」
「は?あんた懲りずにそんな事しちょったん?桂様,何でこいつ生かしとるそ?」
文はすぐに始末しろと桂に詰め寄った。桂が出来ないなら私とフサでやるぞと脅した。
「ここは賑やかでええなぁ。」
「いや坂本さん,今俺を殺す殺さんの話をそこでされちょるんやけど。」
賑やかだけど物騒極まりないと高杉は訴えるが坂本は居心地がいいと顔を綻ばせた。
まだのんびりとしたい所だがこちらも多忙を極める男。
「中岡から一報があればすぐに報せる。」
そう言い残して坂本は名残惜しそうに次の予定があると阿弥陀寺を出た。
それからしばらくして坂本から頼りが届いた。
「桂さんも入江さんも止めてください。あなた方のやり合いで一番被害被るのは三津さんなんですからね。
桂さん,三津さんのその姿見ればここに来るまでの間どれだけ心労が溜まったか想像するに容易いでしょう?
桂さんが一切連絡をしなかった間入江さんがその心労を側で軽くしたのも事実なんですから。嫉妬で三津さんを怯えさすのは止めてください。」
伊藤も三津の事になればずけずけ物申すなと思いながら桂は押し黙った。それからそっと腕を緩めて中に居る三津に目を落とした。
相変わらず眉を垂れ下げた間抜けな顔をしていた。
「少し二人の時間をもらっていいだろうか?」 https://www.easycorp.com.hk/blog/complete-guide-company-incorporation-in-hong-kong/
「確実に二人きりになりたいなら屯所出ないと無理ですよ。」
入江は私が邪魔しに行きますと言わんばかりの笑顔でそう言った。
「三津,少し散歩に出ようか。」
「あっでも……。」
今日は女中の仕事を何一つしてない。夕餉の支度ぐらいはとセツを見た。
「大丈夫やけぇ行ってき!今まで一人でやっちょったんや何も気にする事ないっちゃ。」
セツに許しを得て三津は桂と二人で屯所を出た。桂の背中について近くの海岸までやって来た。
「転けないようにね。」
石の多い歩き難い浜辺でごつごつした岩場の多い場所だった。桂は座りやすい岩に腰を下ろして三津を自分の膝の上に乗せた。
「本当に……前より軽くなってる。」
頬もほっそりしてしまった。柔らかさは健在だが弾力は前より落ちた。
「苦労をかけた……。」
「そうでもないですよ?捕まらないように殆ど閉じこもってた以外は何とか。みんな居てくれましたし。
あ,おじちゃんもおばちゃんも宗もみんな無事で元気です。
途中文が来なくなったのが一番不安で寂しかったですけど。」
桂は無言で三津を抱きしめた。
「小五郎さんはどんな生活をしてたんですか?」
「とにかく地元の住人に馴染んで何食わぬ顔して暮らしてたよ。」
桂は多くを語らなかった。出石がどんな所かぐらいはもう少し詳しく聞けるかと思ったのにそれが叶わず三津の胸の奥には不安だけが残った。「本当に九一とは何もない?」
「ないですよ!まぁ……九一さんはめっちゃ耐えてはりました……。私が傷つく事はしないって約束してくれてそれを守ってくれてます。」
『なるほどね。強い信頼関係を築いた訳だ。』
信頼関係はある意味薄っぺらい愛情よりも堅い。桂には入江の手段が見えた気がした。もしかするとそれはもっと前から作られ始めていたんじゃないか。
だとすればそれは非常に厄介だ。
「三津にとって今の九一はどんな存在だ?玄瑞が兄だったように九一にはどんな役割を当てはめている?」
「んー兄上とはまた違って優しいし相談にも乗ってくれる頼れる人?ですかね。」
『しっかり土台を作ってたか……。したたかな奴だ。』
おまけに屯所では山縣を利用して周りから固めに入っている。三日で周囲に三津を嫁と認識させてるその恐ろしさ。
「三津が愛してるのは私だよね?」
「そうですよ?……もしかして疑ってはるんですか?私がどんな思いで過ごして何でここまで来たか分かってくれないんですか?」
それはあんまりだと三津は目を真っ赤にした。
「違う!そうじゃなくて……すまない。でも泣くのは狡い……。」
「狡いって何よ!向こうでの自分の事全然話さへんのに人の事ばっか気にして!狡いの小五郎さんの方やないですか!」
三津は酷い酷いと桂の胸を叩いた。せっかく会えたのにこんな再会あんまりだ。
「すまない……。泣かないで……。」
伊藤に余計な嫉妬で傷付けないようにと言われたとこなのにやってしまった。
両手で顔を覆って泣く三津を抱きしめてごめんごめんと謝る事しか出来なかった。
「あーやっぱり泣かしちょるー伊藤の言う通りやな。」
「赤禰君か……。何の用だい?」
いつの間にかすぐそこに立っている赤禰を一瞥した。
「入江と伊藤はセツさんの手伝いするけぇ代わりに見て来いって。多分泣かしちょるやろうからその時は三津さん保護しちゃってって言われたんで。上手くやってたら何しよったか偵察しろと。
んで三津さん泣いちょるんで保護します。三津さんおいで。」
赤禰が声をかけると桂の抱きしめてくる手を退けて三津が顔を出した。赤禰が微笑みかけておいでおいでと手招くが桂がまた三津を腕に閉じ込めて顔は胸に埋めさせて隠した。
「悪いが三津とは上手くやっている。その場合は何してるか偵察だったか?じゃあよく見てたらいい。」
桂は三津の顎に手を添えて上を向かせ唇を重ねた。
上座に座り怒り狂う乃美とその隣で呆れ返る桂。
正面でこちらも呆れ返る伊藤と胡座を掻いて拗ねた子供の様な顔をした高杉を確認した。
「お茶お持ちしました。」
静かに中に入ってまず乃美の傍に寄ってどうぞとお茶を勧めた。
「脱藩してまで来る必要ないだろ。せめて何かの任務を預かって来いよ……。」
「だーかーら!俺はこの目で情勢を見たい!それが今後の長州にも役立つ!悪かないやろ。
それに脱藩なんざ松陰先生だってしちょる。」 https://www.easycorp.com.hk/zh/notary
桂の言葉に声を張り上げ胡座に頬杖をついてふんっと顔を反らした。
「このガキ一回斬って脳みそ入れ替えちゃろか!」
乃美の言葉に三津は真っ青になって震え上がった。「やだ!乃美さんがそんなんするの見たくない!やだ!」
三津はふるふると頭を振って乃美の左腕に縋りついた。
「おぉ……すまん……あまりにも腹が立ってうっかり言っただけやけぇ。」
大丈夫大丈夫と目を潤ます三津の頭を優しく撫でた。
『三津さん連れて来て正解だった……。』
伊藤は心臓に悪いと胸に手を当てた。
「三津,真に受けなくていいからそっちに座ってなさい。」
乃美に密着してるのが腹立たしい。胸が当たってるんじゃないか?と片眉が釣り上がる。
桂の声が冷たく感じて三津はしょんぼりした顔で乃美に失礼を詫て,湯呑みを配ると部屋の隅っこにちんまり座った。
乃美はちらちらとしょげた三津に目を向ける。
「とにかく……。来てしまったものは仕方ない……。今日は滞在を許すが早急に長州に帰れ!分かったか!」
これ以上三津を怯えさすのもしのびないから乃美はそう言うに止めた。
「へいへい……。」
目も合わさずふてぶてしく返答した。言う通りにする気なんてさらさら無い。
「晋作……留守を預かる者が家を留守にしてどうする……。考えたら分かるだろ。」
諭すように語る桂の声も知らんぷり。
『ホンマにおっきい子供。』
その様子を見つめていたら不意に目が合った。
「そんなに帰って欲しけりゃ帰ってやるわ。」
高杉が急にすくっと立ち上がり障子に向かって歩き出したが,
「土産にこの娘貰ってくからな!」
「え!?」
三津の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせて半ば引きずるように部屋を飛び出した。
「待て晋作!それは断じて許さん!」
血相を変えた桂もすぐさま部屋を飛び出した。
桂が追ってきたのを確認した高杉は近道じゃと足袋のまま縁側から外に飛び出し,引きずられる三津もそのまま縁側から落ちた。
「……騒々しいと思ったらまさか人攫いが紛れ込んでるとは。」
「馴れ馴れしいにも程があるな。」
「三津さんに怪我でもさせたらどうなるか思い知らせないと。」
高杉の行く手を阻むように三つの壁が立ちはだかる。
「稔麿!九一!玄瑞じゃねぇか!」
久しぶりの再会に無邪気な笑顔の高杉だが吉田は不敵な笑みで大刀の柄に手をかけた。
そしてゆっくり刃が姿を見せるのを見た高杉は慌てて足を止めた。「おいおい久しぶりに会ってそりゃないやろ稔麿!」
「じゃあ三津離してこっちに寄越せ。お前がそうして触ってんのが腹立つわ。」
三津は人質だ。やなこったと悪態をつく。
背後には桂と乃美に伊藤も追いついて囲まれてしまい逃げ道はない。
「刀抜いてみろ。こいつ盾にすっからな!」
ぐっと三津を引き寄せて前後に視線をやった。
「ちょっと会わないうちに男として落ちぶれたな晋作。」
入江は呆れて盛大な溜息をついた。
高杉に引き寄せられた三津はじーっとその顔を見つめた。
「ん?何や。」
それに気付いて視線を落とすと,三津はぐっと背伸びをして高杉との間を詰めた。
何をする気だ?と誰もが三津の行動に釘付けになった瞬間。
「アカンでしょ!」